起立性調節障害の血液検査|何を調べる?貧血・甲状腺など検査項目を解説
「朝なかなか起きられず、強い倦怠感や立ちくらみを訴える子どもを心配して病院へ連れて行ったのに、血液検査では『特に異常はありません』と言われてしまった…」
「血液検査で異常がないなら、このつらさは気持ちの問題や怠けなのでしょうか?」
病院を受診した際、このような疑問や不安、やり場のない焦りを感じる保護者の方は少なくありません。
結論からお伝えすると、血液検査で異常がないからといって「症状がない」「気持ちの問題である」「起立性調節障害(OD)ではない」ということにはなりません。そもそも、起立性調節障害を血液検査の数値だけで診断することはできないからです。
では、なぜ起立性調節障害が疑われるときに血液検査を行うのでしょうか。
この記事では、公的学会のガイドラインや医学的知見に基づき、血液検査を行う本当の目的、主な検査項目、フェリチンや甲状腺に関する正しい考え方、そして「異常なし」と言われたときの捉え方について分かりやすく解説します。
起立性調節障害の血液検査は何のために行う?
起立性調節障害の疑いがある際に行われる血液検査には、明確な役割と目的があります。
血液検査だけで起立性調節障害は診断できない
まず知っておいていただきたいのは、起立性調節障害(OD)という病名自体が、血液中の特定の成分が多すぎたり少なすぎたりすることによって決まるものではないということです。
起立性調節障害の診断は、単一の検査数値で自動的に下されるものではありません。医師は以下のようなステップを組み合わせて総合的に評価します。
- 詳しい問診(身体症状の現れ方や時間帯、生活状況の確認)
- 身体診察(聴診や神経学的診察など)
- 基礎的な検査(血液検査や心電図など)
- 新起立試験(横になった状態と立ち上がった状態での血圧や心拍数の変化、症状などを調べる検査)
血液検査は、この総合的な判断プロセスにおける「一つの要素」に過ぎません。
似た症状を起こす病気を確認する
血液検査は、似た症状(強い倦怠感、立ちくらみ、頭痛、動悸、朝の起床困難など)を起こす病気や状態を鑑別するために行われます。
例えば、激しい倦怠感やめまいがある場合、その症状が起立時の循環調節の異常によるものなのか、それとも貧血や甲状腺疾患などによるものなのかを確認する必要があります。
ただし、ほかの病気が見つからなければ自動的に起立性調節障害と診断されるわけではありません。症状の経過や新起立試験の結果、生活への影響などを合わせて総合的に評価されます。
起立性調節障害が疑われるときの主な血液検査項目
起立性調節障害の診察において、どのような血液検査が行われるのか、主な項目とそれぞれの目的をまとめました。
| 検査の種類 | 主な項目例 | 確認することの例 |
| 血球検査 | 赤血球数、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット、MCVなど | 貧血の有無やその種類などの確認 |
| 鉄関連検査 | フェリチン、血清鉄(Fe)、TIBC、トランスフェリン飽和度など | 体内の貯蔵鉄や鉄代謝の状態の評価 |
| 甲状腺機能検査 | TSH(甲状腺刺激ホルモン)、FT4(遊離サイロキシン)など | 甲状腺ホルモン分泌の状態の確認 |
| 生化学検査 | ナトリウム(Na)、カリウム(K)、血糖、AST/ALT(肝機能)、クレアチニン(腎機能)など | 電解質バランス、代謝状態、主要な臓器(肝臓・腎臓)の機能確認 |
| 炎症反応検査 | CRP(C反応性たんぱく)など | 体内における感染症や炎症性疾患の手がかりの確認 |
| その他 | 症状、診察所見、食事状況、既往歴などに応じて追加検査を検討 | 個別の状態に応じた確認 |
「全員にすべて実施する」とは限らない
上記の表に挙げた検査項目は、あくまで起立性調節障害の診察において「検討されることがある代表的な例」です。すべての医療機関で、すべての患者さんに一律でこれらの検査を全項目行うわけではありません。
必要な検査項目は、患者さんの年齢、性別、具体的な症状、月経の有無や出血量、毎日の食事量、急激な体重変化、過去の病歴などに応じて、医師が個別に判断します。
貧血・鉄欠乏を調べる検査
立ちくらみや強い倦怠感、動悸などは、起立性調節障害の代表的な症状ですが、貧血でも非常によく似た症状が現れることがあります。
ヘモグロビンが正常でも鉄不足が否定できるとは限らない
一般的に「貧血の検査」というと、血液中のヘモグロビン(Hb)の値を指すことが多くあります。ヘモグロビンは赤血球の中で酸素を運ぶ役割を果たすため、ヘモグロビン値が年齢や性別に応じた基準を下回る場合、貧血が疑われます。
しかし、ヘモグロビンの値が正常範囲内であっても、体内に蓄えられている鉄(貯蔵鉄)が減少し始めている状態が存在することがあります。そのため、医師は問診での症状や月経の状況、食事の様子などを考慮し、必要に応じてヘモグロビンだけでなく貯蔵鉄の指標となる項目も合わせて確認することがあります。
フェリチンは単独で判断しない
体内の貯蔵鉄の量を反映する指標として「フェリチン」というたんぱく質があります。
フェリチンの値を調べることは鉄代謝の状態を知るうえで有用ですが、この数値単独で身体の状態を決めつけることはできません。なぜなら、フェリチンは鉄の状態を反映する一方、炎症などの影響でも高くなることがあります(急性相反応たんぱくとしての性質)。
また、フェリチンの基準範囲は、年齢、性別、検査を行う施設や測定方法によっても異なります。特定の一つの数値だけを見て「低いから起立性調節障害の原因はこれだ」「正常だから問題ない」などと自己判断せず、他の血球データや症状と照らし合わせた医師の総合的な判断を仰ぎましょう。
鉄サプリメントを検査前から飲ませてよい?
我が子のつらそうな姿を見ると、「鉄分が足りないのかもしれない」と考えて市販の鉄サプリメントを与えたくなる気持ちはとてもよく理解できます。
しかし、鉄剤や鉄を含むサプリメントの使用状況が検査結果の解釈に関係する場合があります。すでに使用している場合は、自己判断で中止せず、製品名・摂取量・使用期間を医師へ伝えてください。
なお、鉄分は必要以上に摂取すると、吐き気、腹痛、便秘、下痢などの消化器症状を引き起こすことがあります。特に小さなお子さんの誤飲や過剰摂取には注意が必要です。
甲状腺機能を調べる理由
首の付け根付近にある「甲状腺」から分泌される甲状腺ホルモンは、全身の代謝を活発にする重要な働きを担っています。
甲状腺機能の異常と症状の重なり
甲状腺の働きが過剰になったり(甲状腺機能亢進症など)、反対に低下したり(甲状腺機能低下症など)すると、以下のような症状が現れることがあります。
- 強い倦怠感や疲れやすさ
- 動悸や頻脈
- 体重の急激な増加または減少
- 集中力の低下や無気力感
- 暑がり、または寒がり
これらの症状は、起立性調節障害で見られる症状と重なる部分があります。
数値だけで自己診断しない
甲状腺の機能を調べる際には、血液中のTSH(甲状腺刺激ホルモン)やFT4(遊離サイロキシン)といったホルモン値を測定することが検討されます。
ただし、これらの検査を行うかどうか、また検査結果をどう解釈するかは、診察時の首の触診(甲状腺の腫れの有無)、脈拍、皮膚の乾燥具合、症状の経過などを踏まえて医師が判断します。検査結果の数値だけを個別に切り取って自己診断するのではなく、身体全体の診察所見と合わせて評価することが不可欠です。
電解質・血糖・肝臓・腎臓などの検査
起立性調節障害が疑われる際に行われる生化学検査(電解質、血糖、肝・腎機能など)についても、それぞれの意図を正しく理解しておくことが大切です。
全身状態の評価と背景要因の確認
例えば、以下のような身体の状況がある場合、血液中の成分バランスに変化が生じることがあります。
- 脱水や電解質の不均衡: 水分摂取量の低下、発熱、嘔吐、下痢、大量の発汗などがある場合は、脱水や電解質異常の有無を確認することがあります。
- 食事量の低下や体重減少: 朝起きられないことや食欲不振、吐き気などにより、毎日の食事量が著しく落ちている場合、低血糖や栄養状態の低下がないかを確認することがあります。
- 服薬状況の影響: 他の病気で継続して薬を服用している場合、肝臓や腎臓の機能に負担がかかっていないかを安全面から確認します。
繰り返しになりますが、これらすべての項目が「起立性調節障害の全員に必ず必要な検査」というわけではありません。患者さんの体調や日頃の生活状況に応じて、医師が必要性を吟味して実施します。
血液検査が「異常なし」でも起立性調節障害はあり得る?
「血液検査でどこも異常がないと言われたのに、子どもは毎朝本当につらそうにして起きてこられません…」
このように悩み、行き場のない思いを抱える保護者の方は大変多くいらっしゃいます。結論を申し上げると、血液検査が「異常なし」であっても、起立性調節障害である可能性は十分にあり得ます。
血液検査と循環調節の評価の違い
起立性調節障害(OD)では、起立時の血圧や心拍数などの循環調節がうまく働かず、立ちくらみ、動悸、倦怠感などが現れることがあります。変化の現れ方は病型(サブタイプ)によって異なります。
一般的に血液検査で調べるのは、血液中に含まれる成分の量や臓器の機能状態です。一方、起立時に血圧や心拍数がどのように変化するかという循環動態の現れ方は、安静時の血液検査だけで捉えられるものではありません。
「異常なし」の正しい意味合い
血液検査が「異常なし」だった場合、それは「今回実施した血液検査の範囲では、症状を説明する明らかな異常が確認されなかった」という意味です。
「異常なしだから安心」で終わらせたり、「異常がないから絶対に起立性調節障害だ」と一方的に決めつけたりするのではなく、検査項目、症状の経過、新起立試験による起立時の循環動態と症状の評価などを総合的に組み合わせて判断していくことが重要です。
血液検査を受ける前に医師へ伝えたいこと
血液検査の必要性を正しく判断し、よりスムーズに診断を進めるために、受診の際には以下の情報を医師へ伝えると非常に役立ちます。メモにまとめて持参するのもおすすめです。
- 症状が起こる時間帯やパターン: 朝起きたときの状態、午前中と午後での体調の変化、夕方以降の様子など
- 月経の状況(女性の場合): 月経の開始年齢、周期の乱れ、経血量の多さ、月経痛の程度など
- 食事量と食事内容: 1日の食事の回数、偏食の有無、水分が十分にとれているかなど
- 体重の増減: 最近数ヶ月間での急激な体重減少や増加の有無
- 一時的な体調の変化: 直近での発熱、下痢、嘔吐、大量の発汗など
- 使用している薬やサプリメント: 処方薬、市販薬、プロテイン、ビタミン・鉄サプリメントなどの使用製品名・摂取量・使用期間
- ご家族の病歴: アレルギー、甲状腺疾患、起立性調節障害などの家族歴
- 過去の検査結果: 他の医療機関や学校の健診などで受けた血液検査や心電図の結果があれば持参する
検査結果を受け取ったときの確認ポイント
血液検査の結果が出たら、単に「正常だった」「数値が外れていた」という結果だけに一喜一憂せず、以下のポイントを医師と一緒に確認しましょう。
- 何を確認するために行った検査だったのか: 貧血、炎症、臓器機能など、どの病気や状態を確認するための検査だったのかの説明を受けます。
- 基準範囲を外れた項目の意味: もしH(高値)やL(低値)がついている項目があれば、それが今回の症状とどう関連しているのか(あるいは一時的なもので関連が薄いのか)を確認します。
- 再検査や追加検査が必要か: 今回のデータだけで不十分な場合、時間をおいて再検査をしたり、別の項目を追加して調べる必要があるかを聞きます。
- 新起立試験を行う必要性: 血液検査等で他の状態が整理されたら、新起立試験を実施して起立時の血圧・心拍数・症状の変化を確認する必要があるかを聞きます。
- 症状が続く場合の次の受診先や対応方針: 検査結果で明らかな異常が確認されなくても本人の不調が続いている場合、今後どのように経過を観察し、どのような医療機関と連携していくかの方針を相談します。
まとめ
起立性調節障害の診察における血液検査の役割について、重要なポイントを整理します。
- 血液検査だけで起立性調節障害を診断することはできない
- 主な目的は、貧血や甲状腺疾患など、似た症状を起こす病気や状態を確認すること
- 必要な検査項目は、年齢、性別、症状、生活状況などに応じて患者ごとに異なる
- 血液検査が「異常なし」であっても、症状の否定や「気持ちの問題」ということにはならない
- 診断には問診、診察、新起立試験による起立時の循環動態と症状の評価などを合わせた総合的な判断が必要
血液検査で「異常なし」と言われると、原因が分からず不安になるかもしれません。
自己判断でサプリメントに頼ったり放置したりせず、医師としっかりコミュニケーションをとりながら、一つひとつ丁寧に必要な評価を進めていきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 血液検査だけで起立性調節障害と診断できますか?
A. 血液検査だけで診断することはできません。起立性調節障害の診断では、問診による症状と経過の確認、身体診察、似た症状を起こす病気の鑑別、新起立試験による起立時の血圧・心拍数・症状の評価などを組み合わせて総合的に判断します。
Q2. 血液検査が正常なら病気ではないのでしょうか?
A. 今回実施した血液検査の範囲で明らかな異常が確認されなかったとしても、それだけで症状がないことにはなりません。起立時に現れる循環調節の変化は、一般的な血液検査では分かりません。「気持ちの問題」と決めつけず、医療機関へ相談してください。
Q3. フェリチン(貯蔵鉄)は必ず検査してもらえますか?
A. すべての患者さんに一律で実施されるわけではありません。月経の状況、食事量、倦怠感の程度、血球検査(ヘモグロビン値など)の結果を踏まえ、医師が必要と判断した場合に選択されます。
Q4. 検査前に市販の鉄サプリメントを飲んでもよいですか?
A. 自己判断で開始せず、すでに使用している場合も製品名、摂取量、使用期間を医師へ伝えてください。サプリメントの使用状況が検査結果の解釈に関係する場合があります。また、過剰摂取による胃腸障害などのリスクにも注意が必要です。
Q5. 血液検査は何科で受けられますか?
A. 子どもや高校生は、まず小児科またはかかりつけ医へ相談します。成人は一般内科や総合診療科を入口とし、症状に応じて循環器内科などへ紹介される場合があります。
【内部リンク候補】
- 起立性調節障害と似た病気とは?(
[https://od-navi.net/differential-diagnosis/](https://od-navi.net/differential-diagnosis/)) - 新起立試験とは?
- 起立性調節障害は何科を受診すべき?
- 起立性調節障害には鉄分が良いって本当?
- 【固定ページ】検査・診断
【参考資料】
- 日本小児科学会「起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)」https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20240130_GL035.pdf
- 日本小児心身医学会「起立性調節障害」https://www.jisinsin.jp/general/typical_diseases/起立性調節障害/
- 石井和嘉子「『小児起立性調節障害診療ガイドライン改訂第3版』の概説」『日大医学雑誌』85巻2号、51–57頁、2026年https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/85/2/85_51/_article/-char/ja
- 日本内分泌学会「潜在性甲状腺機能異常」https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=39

